小惑星で初めての環が発見される
- 2014/03/27
- 23:21
ケンタウルス族の小惑星カリクロー (10199 Chariklo) に2本の環が見つかった。環を持つ天体としては5番目の発見であり、小惑星では初めての成果である。
論文:F. Braga-Ribas "A ring system detected around the Centaur (10199) Chariklo" (2014)

カリクローと2本の環の想像図。
画像引用元 (ESO)
カリクローは、木星から海王星の間の距離を公転するケンタウルス族と呼ばれる小惑星のグループに属し、直径は258.8kmとこのグループで最大の大きさを持つ。氷と岩石を主体とする、構成成分的には彗星と似通った天体と考えられている。
カリクローの環の発見は全くの偶然である。2013年6月3日に、カリクローはUCAC4 248-108672という恒星の手前を通過し、その様子を複数の天文台が捉えていた。恒星の手前を天体が通過すると、恒星が隠されるために数秒間消えて見える掩蔽とよばれる現象が観測される。これを正確にとらえれば、カリクローの直径と形が判明するのである。
ところが予想外の事態が起きた。カリクローが恒星の手前を通過すると、1回恒星が消えてまた現れる現象が観測されるはずだが、実際にはその前後に数回の減光が観測されたのである。当初、これはカリクローが彗星として活動しており、薄い大気をまとっているからと予想された。ケンタウルス族の小惑星の構成成分は彗星に近く、実際にケンタウルス族に似通った軌道を持つ彗星や、小惑星として発見された後に彗星としての活動が確認されたキロンのような例がある。しかし、減光の様子を良く確認した結果、実際には弱い減光と強い減光の2種類がはっきりと分離できる事がわかった。天体の周りを薄く取り巻く大気ならばこのような減光パターンはあり得ない。このため、この減光の原因は大気ではなく、2本の細い環によってもたらされた可能性が示された。環はこれまで木星、土星、天王星、海王星でしか知られておらず、いずれも巨大な天体である事を考えると、直径260km程度しかない小さな天体が環を持っているのは非常に驚きの発見である。
2本の環は、内側を「2013C1R」、外側を「2013C2R」と呼ぶ。また、発見者は非公式のニックネームとしてそれぞれ「オイアポキュエ (Oiapoque)」と「チュイ (Chuí)」を提案している。これはブラジルの北部と南部それぞれの国境に接する川の岸の名前である。内側の環はカリクロー本体から396km、外側の環は405kmであり、幅はそれぞれ7kmと3kmという狭い物である。構成成分は密度の濃い氷の粒であると考えられている。環の形成には様々な仮説があるが、そもそも巨大惑星の環ですら複数の成因が考えられているため、カリクローは何らかのヒントを提供するかもしれない。カリクローのような小さな天体の場合、かつての天体衝突で飛び散った破片が円盤状となり、次いで特に大きな破片の重力の影響である程度物質が揃えられた結果、細くて密度の濃い環を維持していると考えられている。さもなくば、重力の弱いカリクローでは環の維持は困難であり、また複数本の環を持つ事を説明する事は困難である。土星などの既知の天体では、細い環を維持する「羊飼い衛星」と呼ばれる微小な衛星のペアが知られている。環の内側と外側それぞれにペアとなる衛星が存在し、この2つの衛星の重力が、環を構成する塵が外に飛び出したり内側に落ちたりする事を防いでいるのである。この様が、羊の群れを制御する羊飼いの様に似ている事からこのような呼ばれ方をする。カリクローの細い複数本の環も、その維持には羊飼い衛星の存在が予想される。ただし、直径は1km程度という極めて小さなものであると考えられており、この大きさでは、観測による発見は極めて困難である。
もし羊飼い衛星が存在すれば、環の存在は安定的であると考えられている。しかしカリクロー本体の安定性は別である。ケンタウルス族は複数の巨大惑星に近づく軌道を持つため、重力的に不安定である。カリクローの場合、1000万年ほどすると軌道が不安定となり別の公転軌道に移ると考えられている。そうなれば太陽系の外側に放り出されるか、さもなくばより太陽に近づいて彗星としての活動をするかもしれない。活動が活発化したカリクローの環が蒸発しないとは考えにくいがはたして。
論文:F. Braga-Ribas "A ring system detected around the Centaur (10199) Chariklo" (2014)

カリクローと2本の環の想像図。
画像引用元 (ESO)
カリクローは、木星から海王星の間の距離を公転するケンタウルス族と呼ばれる小惑星のグループに属し、直径は258.8kmとこのグループで最大の大きさを持つ。氷と岩石を主体とする、構成成分的には彗星と似通った天体と考えられている。
カリクローの環の発見は全くの偶然である。2013年6月3日に、カリクローはUCAC4 248-108672という恒星の手前を通過し、その様子を複数の天文台が捉えていた。恒星の手前を天体が通過すると、恒星が隠されるために数秒間消えて見える掩蔽とよばれる現象が観測される。これを正確にとらえれば、カリクローの直径と形が判明するのである。
ところが予想外の事態が起きた。カリクローが恒星の手前を通過すると、1回恒星が消えてまた現れる現象が観測されるはずだが、実際にはその前後に数回の減光が観測されたのである。当初、これはカリクローが彗星として活動しており、薄い大気をまとっているからと予想された。ケンタウルス族の小惑星の構成成分は彗星に近く、実際にケンタウルス族に似通った軌道を持つ彗星や、小惑星として発見された後に彗星としての活動が確認されたキロンのような例がある。しかし、減光の様子を良く確認した結果、実際には弱い減光と強い減光の2種類がはっきりと分離できる事がわかった。天体の周りを薄く取り巻く大気ならばこのような減光パターンはあり得ない。このため、この減光の原因は大気ではなく、2本の細い環によってもたらされた可能性が示された。環はこれまで木星、土星、天王星、海王星でしか知られておらず、いずれも巨大な天体である事を考えると、直径260km程度しかない小さな天体が環を持っているのは非常に驚きの発見である。
2本の環は、内側を「2013C1R」、外側を「2013C2R」と呼ぶ。また、発見者は非公式のニックネームとしてそれぞれ「オイアポキュエ (Oiapoque)」と「チュイ (Chuí)」を提案している。これはブラジルの北部と南部それぞれの国境に接する川の岸の名前である。内側の環はカリクロー本体から396km、外側の環は405kmであり、幅はそれぞれ7kmと3kmという狭い物である。構成成分は密度の濃い氷の粒であると考えられている。環の形成には様々な仮説があるが、そもそも巨大惑星の環ですら複数の成因が考えられているため、カリクローは何らかのヒントを提供するかもしれない。カリクローのような小さな天体の場合、かつての天体衝突で飛び散った破片が円盤状となり、次いで特に大きな破片の重力の影響である程度物質が揃えられた結果、細くて密度の濃い環を維持していると考えられている。さもなくば、重力の弱いカリクローでは環の維持は困難であり、また複数本の環を持つ事を説明する事は困難である。土星などの既知の天体では、細い環を維持する「羊飼い衛星」と呼ばれる微小な衛星のペアが知られている。環の内側と外側それぞれにペアとなる衛星が存在し、この2つの衛星の重力が、環を構成する塵が外に飛び出したり内側に落ちたりする事を防いでいるのである。この様が、羊の群れを制御する羊飼いの様に似ている事からこのような呼ばれ方をする。カリクローの細い複数本の環も、その維持には羊飼い衛星の存在が予想される。ただし、直径は1km程度という極めて小さなものであると考えられており、この大きさでは、観測による発見は極めて困難である。
もし羊飼い衛星が存在すれば、環の存在は安定的であると考えられている。しかしカリクロー本体の安定性は別である。ケンタウルス族は複数の巨大惑星に近づく軌道を持つため、重力的に不安定である。カリクローの場合、1000万年ほどすると軌道が不安定となり別の公転軌道に移ると考えられている。そうなれば太陽系の外側に放り出されるか、さもなくばより太陽に近づいて彗星としての活動をするかもしれない。活動が活発化したカリクローの環が蒸発しないとは考えにくいがはたして。
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