大統一理論とシーソー機構で予言される「ミューイーガンマ崩壊」は観測されず
- 2016/03/16
- 23:00
標準理論では禁止されているが、大統一理論では存在する可能性がある「ミューイーガンマ崩壊」が予測される確率では観測されなかったとMEG実験を行っているMEG Collaborationが発表した。
論文:MEG Collaboration. "Search for the Lepton Flavor Violating Decay μ+→e+γ with the Full Dataset of decay in the MEG Experiment" (2016)

大統一理論とシーソー機構によって存在が予言される未知のニュートリノのパートナーによって発生する場合のミューイーガンマ崩壊のファインマン・ダイアグラム。
画像引用元 (Inspirehep)
現在の素粒子理論の基本形態は「標準理論」を用いて行われている。しかしながら、標準理論は完全な理論ではなく、例えば標準理論ではニュートリノの質量は0であるが、実際にはニュートリノ振動の発見により質量が存在する事が確かめられている。このため標準理論を超える素粒子物理学の理論構築が模索されており、その1つが「大統一理論」である。宇宙が誕生した直後、自然界に存在する4つの基本相互作用は全て同じ相互作用に統一されていたと考えられているが、標準理論の範疇で統合できるのは電磁相互作用と弱い相互作用だけである。大統一理論では更に強い相互作用も統合する物である (なお重力相互作用まで統合する物は「超大統一理論」と呼ばれている。) 。大統一理論では、標準理論ではうまく説明できない素粒子物理学の現象を説明できると見られているが、現在の人類の技術では得られない高エネルギー領域の世界となるため、実験的に確かめられる事柄が少ない。このため大統一理論は、そのほとんどは未完成である。
そのような中で、数少ない実験的な確認が可能そうな現象が「ミューイーガンマ崩壊」である。事の発端はニュートリノに質量が存在した事実である。ニュートリノ振動によってニュートリノの3種類がそれぞれ相互に入れ替わる事実は、ニュートリノには極めてわずかながら質量が存在する事を予言する。その値はクォークやニュートリノ以外のレプトンの数百万倍も軽い。このあまりに軽すぎる値はニュートリノの質量は他の粒子とは異なる機構によって発生している可能性を示唆している。その1つが「シーソー機構」である。非常に大雑把に言えば、ニュートリノの質量が極めて軽いのは、未だ観測されていないニュートリノのパートナーが極めて重いためであり、これにより全体ではバランスを取っているのではないかと言う予測である。もしそのような重い粒子が存在したとしても、極めて短時間に崩壊する為観測できない。
この大統一理論とシーソー機構は直接観測は極めて難しい物の、間接的な現象は観測できる可能性がある。それはレプトンの「μ粒子」の崩壊である。μ粒子は電子の約209倍重い粒子であり、約2.2マイクロ秒で崩壊する。通常、μ粒子は電子と2個のニュートリノに崩壊する。しかしながら、大統一理論の範疇では、極めて低い確率でμ粒子は電子とγ線 (光子) に崩壊するミューイーガンマ崩壊が存在する可能性がある。この崩壊はフレーバーを保存しないため、重いニュートリノの存在を仮定しない標準模型の範疇では禁止された崩壊である。ミューイーガンマ崩壊がもし観測されれば、大統一理論とシーソー機構をわずかながら実験的に確かめる事に寄与する。一方でミューイーガンマ崩壊が観測されなければ、それは大統一理論とシーソー機構は現在の形では誤っており、修正を指摘する物となる。しかしながら、ミューイーガンマ崩壊は、仮に存在したとしても分岐確率が1兆分の1 (10-12) と極めて小さいため、これまで観測は困難であった。
「MEG実験」では、日本、スイス、イタリア、ロシア、アメリカ合衆国の共同研究 MEG Collaboration により、ミューイーガンマ崩壊の存在を探った。高エネルギー加速器研究機構・東京大学・早稲田大学が共同開発したミューイーガンマ崩壊で発生するγ線を検出する世界最大の2.7tの液体キセノン測定器と莫大な粒子崩壊を処理し陽電子のピークを探る超伝導スペクトロメータ、毎秒約1億個の反μ粒子 (μ+) を発生させる世界唯一の性能を持つポールシェラー研究所の加速器を組み合わせ、反μ粒子の崩壊を最大2兆分の1 (5×10-13) の確率の物も検出できる程感度を高めた。
その結果、2009年から2013年の約4年間の観測実験の中で、ミューイーガンマ崩壊は発見されなかった。これはミューイーガンマ崩壊が最大でも2兆4000億分の1 (4.2×10-13) 以下の確率でしか起こらない事を意味する。今回の実験結果は、少なくともシンプルな形での大統一理論とシーソー機構を否定し、修正を迫る形となる。
論文:MEG Collaboration. "Search for the Lepton Flavor Violating Decay μ+→e+γ with the Full Dataset of decay in the MEG Experiment" (2016)

大統一理論とシーソー機構によって存在が予言される未知のニュートリノのパートナーによって発生する場合のミューイーガンマ崩壊のファインマン・ダイアグラム。
画像引用元 (Inspirehep)
現在の素粒子理論の基本形態は「標準理論」を用いて行われている。しかしながら、標準理論は完全な理論ではなく、例えば標準理論ではニュートリノの質量は0であるが、実際にはニュートリノ振動の発見により質量が存在する事が確かめられている。このため標準理論を超える素粒子物理学の理論構築が模索されており、その1つが「大統一理論」である。宇宙が誕生した直後、自然界に存在する4つの基本相互作用は全て同じ相互作用に統一されていたと考えられているが、標準理論の範疇で統合できるのは電磁相互作用と弱い相互作用だけである。大統一理論では更に強い相互作用も統合する物である (なお重力相互作用まで統合する物は「超大統一理論」と呼ばれている。) 。大統一理論では、標準理論ではうまく説明できない素粒子物理学の現象を説明できると見られているが、現在の人類の技術では得られない高エネルギー領域の世界となるため、実験的に確かめられる事柄が少ない。このため大統一理論は、そのほとんどは未完成である。
そのような中で、数少ない実験的な確認が可能そうな現象が「ミューイーガンマ崩壊」である。事の発端はニュートリノに質量が存在した事実である。ニュートリノ振動によってニュートリノの3種類がそれぞれ相互に入れ替わる事実は、ニュートリノには極めてわずかながら質量が存在する事を予言する。その値はクォークやニュートリノ以外のレプトンの数百万倍も軽い。このあまりに軽すぎる値はニュートリノの質量は他の粒子とは異なる機構によって発生している可能性を示唆している。その1つが「シーソー機構」である。非常に大雑把に言えば、ニュートリノの質量が極めて軽いのは、未だ観測されていないニュートリノのパートナーが極めて重いためであり、これにより全体ではバランスを取っているのではないかと言う予測である。もしそのような重い粒子が存在したとしても、極めて短時間に崩壊する為観測できない。
この大統一理論とシーソー機構は直接観測は極めて難しい物の、間接的な現象は観測できる可能性がある。それはレプトンの「μ粒子」の崩壊である。μ粒子は電子の約209倍重い粒子であり、約2.2マイクロ秒で崩壊する。通常、μ粒子は電子と2個のニュートリノに崩壊する。しかしながら、大統一理論の範疇では、極めて低い確率でμ粒子は電子とγ線 (光子) に崩壊するミューイーガンマ崩壊が存在する可能性がある。この崩壊はフレーバーを保存しないため、重いニュートリノの存在を仮定しない標準模型の範疇では禁止された崩壊である。ミューイーガンマ崩壊がもし観測されれば、大統一理論とシーソー機構をわずかながら実験的に確かめる事に寄与する。一方でミューイーガンマ崩壊が観測されなければ、それは大統一理論とシーソー機構は現在の形では誤っており、修正を指摘する物となる。しかしながら、ミューイーガンマ崩壊は、仮に存在したとしても分岐確率が1兆分の1 (10-12) と極めて小さいため、これまで観測は困難であった。
「MEG実験」では、日本、スイス、イタリア、ロシア、アメリカ合衆国の共同研究 MEG Collaboration により、ミューイーガンマ崩壊の存在を探った。高エネルギー加速器研究機構・東京大学・早稲田大学が共同開発したミューイーガンマ崩壊で発生するγ線を検出する世界最大の2.7tの液体キセノン測定器と莫大な粒子崩壊を処理し陽電子のピークを探る超伝導スペクトロメータ、毎秒約1億個の反μ粒子 (μ+) を発生させる世界唯一の性能を持つポールシェラー研究所の加速器を組み合わせ、反μ粒子の崩壊を最大2兆分の1 (5×10-13) の確率の物も検出できる程感度を高めた。
その結果、2009年から2013年の約4年間の観測実験の中で、ミューイーガンマ崩壊は発見されなかった。これはミューイーガンマ崩壊が最大でも2兆4000億分の1 (4.2×10-13) 以下の確率でしか起こらない事を意味する。今回の実験結果は、少なくともシンプルな形での大統一理論とシーソー機構を否定し、修正を迫る形となる。
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